「ロシアが勝利したら、ウクライナはどんな国になるのか?
~ドミトリー・トレーニン最新論考をやさしく解説~」
本文2024年12月21日、ロシアを代表する国際政治学者ドミトリー・トレーニンが、極めて重要な論考を発表した。タイトルは「ロシアの勝利後のウクライナの姿」。これは単なる「ロシア勝利宣言」ではなく、「戦争が終わった後にロシアがどんなウクライナを望み、どう作り上げるつもりか」を、驚くほど率直に語った未来設計図である。ロシア側の思考を理解する上で、これ以上ない資料だ。以下、要点をわかりやすくまとめる。
1. 大前提:1991年のウクライナはもう終わった
トレーニンは断言する。
「1991年12月31日に存在したウクライナは消滅した」すでにクリミア、ドンバス(ドネツク・ルガンスク)、ヘルソン・ザポリージャの4地域は国民投票でロシアに復帰済み。今後、オデッサ、ニコラエフ、ハルキウ、ドニプロ(旧ドネプロペトロフスク)など、さらに多くの地域が続く可能性が高い。ただし「全部取るわけではない」。ロシアは感情ではなく戦略で動く。防衛線として合理的な範囲だけを確保し、それ以上は無理に拡大しない方針だ。つまり、リヴィウを中心とする西部ウクライナ(ガリツィア地方)は、ロシア国境の外に残る。
2. ロシアの歴史的使命とは?
トレーニンは今回の戦争をこう位置づける。
「ウクライナは西側に支援された反ロシア勢力に人質にされている。彼らはロシア人をロシア人同士で殺させている。これは文明的・歴史的に許されない事態だ」だからロシアの使命は、
- ドンバス・ノヴォロシアの解放で終わるわけではない
- ウクライナ全土を「ネオナチ・バンデラ政権」から解放する
- これは帝国主義ではなく、国家の安全保障だ
「帝国の征服ではなく、隣に永遠の敵を作るのを防ぐため」 これがロシア側の公式見解である。
3. 戦後ウクライナの4つのシナリオ
トレーニンは専門家たちの議論を整理し、4つの可能性を示した。
① 完全統合シナリオ
リヴィウまで全部ロシアに取り込み、ウクライナ国家を消滅させる「第二のロシア再統一」。
→ しかし広すぎる領土の維持・再建コストが莫大で、現実的ではない。
② 親西側ウクライナ(最悪シナリオ)
領土が少し減るだけで、復讐心に燃える強烈な反露国家が残る。
西側が資金と武器を注ぎ込み、将来またロシアを攻撃する拠点になる。
→ ロシアは「どんな犠牲を払ってでも」これを阻止するつもり。
③ 破綻国家シナリオ
西側に見捨てられ、ロシアにも依存しきれない分裂国家。犯罪組織や民兵が支配する「ソマリア化」。
→ 不安定すぎてロシアにとっても都合が悪い。④ 分割・新生ウクライナ(最も現実的で望ましい)
・反ロシア勢力は西部(リヴィウなど)に押し込まれ、NATO・ポーランドなどの保護下に置かれる
・残りの地域で「新しいウクライナ」が生まれる
特徴は
・規模は小さくなるが安定する
・過激なバンデラ主義は排除される
・経済はロシア主導のユーラシア経済連合に統合
・政治的には「武装中立」(軍事ブロックには加入しない)これがロシアにとって最も有利で、ウクライナ人にとっても「現実的な幸せ」だとトレーニンは主張する。
4. 新しいウクライナのアイデンティティ
驚くべきことに、トレーニンは「新生ウクライナは旧ソ連時代よりもっとウクライナらしくなる」と書いている。
理由はこうだ。「スターリンが最大の過ちを犯した。1939~45年にポーランドからガリツィア(リヴィウなど)を奪ってウクライナにくっつけたことで、強烈な反露ナショナリズムのウイルスを持ち込んでしまった」つまり西部ウクライナこそが「病巣」であり、そこを切り離せば残りは「健全なウクライナ」になる、という論理だ。
新生ウクライナは
- キエフ・ルーシ、ザポリージャ・コサック、ソビエト時代の文化的遺産を誇る
- ロシア帝国・ソ連への貢献も肯定的に評価する
- 2014年以降の腐敗エリートは一掃される
- ウクライナ正教会が精神的支柱になる
要するに「反露じゃなければ、むしろロシアはウクライナ文化を尊重するよ」というメッセージである。
5. 今から準備を始めているトレーニンは「戦争終結を待つ必要はない」と書く。
すでにロシア国内には、数百万人のウクライナ難民・移住者がいる。彼らの中から
- 愛国的なウクライナ人
- 再建に協力してくれる将校・起業家・文化人
を選抜し、戦後の新政府の母体にする計画が進行中だという。一方で「戦争犯罪者」「矯正不可能なロシア嫌い」は徹底的に排除する(=リスト化されているということ)。
6. 西側への宣伝戦も始まっているロシアはウクライナ人にこう訴えるつもりだ。
「西側は君たちを捨て駒にしか思っていない。武器は売るが、再建資金は出さない。資源は欧米企業に奪われ、文化はLGBTイデオロギーで破壊されるだけだ。真の未来はロシアとの協力にある」チェチェンや戦後の東ドイツ、北部同盟(アフガニスタン)のように、「一度戦った相手をパートナーに変えるのがロシアの得意技だ」と強調する。最後にトレーニンはこう締めくくっている。
「ロシアの勝利は、ウクライナ人を腐敗した西側傀儡政権から解放する日になる。ロシア人には将来の安全と強さを、ウクライナ人には真の自由と尊厳をもたらす。勝利の日は、両国民にとっての解放の日でなければならない」まとめるとロシア側が描く戦後像は極めて具体的だ。
- 西部は切り離して「反露保護区」に
- 残りで「親露ではないが中立で経済的にロシアと一体化した小ウクライナ」を作る
- それを「ウクライナ人自身の幸せ」と位置づける
もちろん、これはあくまでロシア側の望むシナリオであり、ウクライナ人がどう受け止めるかは全く別問題だ。しかし2025年現在、戦況がロシア有利に傾く中で、モスクワのエリート層が「もう次の段階の設計図を公開し始めた」という事実は、極めて重い。この先、和平交渉が始まるとしても、ロシアは「1991年の国境に戻す」なんて一ミリも考えていない。それどころか「新生ウクライナ」構想をテーブルに乗せてくるだろう。まさに歴史の転換点を見ているのかもしれない。